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送電線工事に最強のパートナー「エナーク160」
より安全で、スピーディな作業が実現
2023.09.28
停電時間&建設コストを大幅にカット
例えば、275kV以上の電圧を扱う大型の送電鉄塔で建て替え工事が発生したとしよう。その大半は山間部では樹木の成長、都市部においては建築物を取り巻く環境の変化により、送電線との離隔距離が十分に確保できなくなったことが理由に挙げられ、それを回避するために計画から施工まで、何カ月もの歳月をかけて行われている。
別の位置で建て替えを行う場合、新たに鉄塔を建てる用地を取得しつつ、電線の位置が変わることで「線下用地」の取得も必要になる。
また、元の位置で建て替えを行う場合、電線を移動させるための仮鉄塔の建設はもちろん、これに伴う用地取得、既設鉄塔の撤去と新たな鉄塔の建設という段取りを踏む。
いずれのケースも「工事の長期化」「建設コストの高騰」が生じてしまう。電気の安定供給には不可欠な工事でありながら、永続的なテーマとして電力各社で技術開発に取り組んできた。
さまざまな工法が試されるなか、前述の課題を回避できるスタイルとして「かさ上げ」への着目が急増。特に大型の送電鉄塔ではメリットが多く、安全面や作業効率でブラッシュアップが重ねられてきた。ここで取り上げる「エナーク160」は同スタイルの代表格で、まさに大型鉄塔のエキスパートとして開発されたのである。
システムは、鉄塔を持ち上げる「揚重昇降装置(主装置)」と、これを支える「主柱部」、そして、鉄塔を固定する「鉄塔把持部」という大きく3つの部分で構成。鉄塔の基礎部に主装置を組み、引き上げ用の主柱(2段分)を同時にセッティング。これをギアで引き上げて下部から主柱を差し込み、1つずつ固定しながら規定の高さまで主柱を積んでいく。最後に鉄塔把持部で主装置と鉄塔を固定し、準備完了となる。
2段構造の主装置にはピニオンギアを装備する8台の駆動部(減速機)を搭載。これが主柱部に取りつけたラックギア上をスムーズに昇降し、鉄塔が連動するという流れだ。
「かさ上げ」の全工程は約半日に短縮
新たな用地の確保も不要で、停電時間も最小限に抑えることができる。ラインマンの塔上作業も軽減することで安全性を確保し、作業時間の短縮も負担の軽減につながる。
需要家はもちろん、技術者にも大きなメリットをもたらす「エナーク160」。今回のデモンストレーションは秋田県と宮城県を結ぶ奥羽幹線で行われ、場所は宮城県大崎市の北西に位置する山間部、樹木との離隔距離を確保するために「エナーク160」の登場となった。
簡単に作業の流れを説明すると、まずは「エナーク160」の基礎を組み、セッティングして8mほど持ち上げる。それから鉄塔の新設部品を接続して「かさ上げ」の全工程が完了となる。作業開始から約半日。もちろん、装置の搬入や鉄塔の基礎工事といった準備、撤収まで含めると数日の工期を要するが、当日は約2時間のデモンストレーションで、鉄塔の新設部品を接続して安全な状態まで組み上げている。この作業ペースは、まさにエポックメーキングと表現しても過言ではないだろう。
需要家にも技術者にも、あらゆる面でエコを約束する「エナーク160」は、送電鉄塔の建て替え工事において、新たな定番システムとして実績を積み上げていくはずだ。
(取材協力/株式会社ETSホールディングス、撮影/宮澤 豊)